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西野亮廣『革命のファンファーレ』

ここからは、“好きなことを仕事化するしか道が残されていない”時代だ。
この本の冒頭に、彼はそう断言する。10年前と比べ、驚くほどにSF感が薄れ日常に浸透してきたAIという存在や、次々と生み出される革新的な技術や機械。またそれらを根強く支えるインターネットを中心とした情報社会を考えると、ここ数年の社会の急速な変化・発展がどんなに凄まじい現象であるか。20歳やそこらの学生でさえも想像することは難くない。
そんな時代の中で、将来に不安を覚え、“やりたいことが見つからない”と嘆く人や、やりたいことを1つに決められず迷う人は多いのではないか。
しかしこのように、やりたいことを掛け持つことや迷うことは、これからの時代を生き抜く術なのだという。彼曰く、
やりたいことが見つからないことは、間違いでも何でもない。肩書が猛スピードでなくなっていく時代にキチンと対応できている証拠だ。 (中略) いくつかの職業を掛け持つことで新しい選択肢だって生まれる。
彼が2017年に発表した『えんとつ町のプペル』は実に4年半もの時間が費やされたようだが、これは芸人としての職を彼が持っていたから可能であったわけで、絵本作家一本で活動していたら、生まれてこなかった作品なのだ。
この本の内容を簡単に説明するならば、芸人 西野亮廣が『えんとつ町のプペル』をいかにしてつくり、売り、展開させていったか。そのアイデアや着眼点が事細かに記載された本といえる。
詳しくは、是非ご自身の目で確かめてほしいのでここからは、特に印象に残った言葉について紹介していく。

◼︎常識のアップデートをやめるな
彼は、まず絵本の作り方から疑った。絵本業界では本来、絵本は一人で作るものであった。なぜかと疑問に思い調べたところ、市場規模や発行部数が多くないことから、売り上げがあまり伸びず、資金調達が難しく一人で作らざるを得ない状況なのだとわかった。

それなら、資金調達の部分が解決されたらいいのではないかと考え、クラウドファンディングを利用して、絵本の作成をスタートした。このように、既存のシステムをただ受容するだけではなくて、どうしてそのようになっているのか、ということを疑い、調べることが重要だと彼は述べいてる。絵本の売り方だけに止まらず、時代の変化に伴い、常識は変わっていく。常識のアップデートをやめないことが、時代を生き抜く術なのだ。
また、彼は目新しい方法で絵本を売っている。例えば、絵本の全ページ無料公開。
これは、人は確認作業でしか動かないという考えに基づいて行われた。例として、大ヒットした『君の名は。』も、そんなにヒットするならどんな映画なのか?という確認作業により売り上げにつながったのである。絵本を事前に無料公開することで、確認作業をさせ、あらかじめ内容がわかっている上で、購入させる。絵本を読み聞かせ目的で購入する親は、自分が内容を知っている絵本しか、購入することはないのだ。

◼︎自分の時間を使うな。他人の時間を使え。
彼が行ったクラウドファンディングで、リターンに、支援者が自由に絵本の個展を開ける権利が付くというものがあった。そうすることで、彼は広告の連鎖が自然発生的に起こる仕組みをつくった。これはまさに、自分の時間ではなく他人の時間を使って宣伝した例である。

ここにおける、支援者のような存在をセカンドクリエイターと呼ぶ。これからの時代は、いかに、セカンドクリエイターの心を揺さぶり「作ってみたいな」と思わせるかが鍵となってくる。どうやって他人の時間を使うか。1日を24時間から、どれだけ伸ばせるか。

私は、この本を自分の経験と結びつけながら読んでいた。彼は自分の力だけでは無理だとと気づき、人を頼るという決断をした。自分の目標が見えている上で、そこから逆算して人に頼ることが必要だという結論にいたったのだ。

私は、自分の能力で完結する範囲内で目標を設定しがちだった。しかし、人と協力することで、より高い目標を目指すことが可能となる。

頼ることは恥ずかしいことであり、億劫だと思っていた自分がちっぽけに見えた。
やりたいことがあるなら、自分の中で考えるのではなく、他の人を巻き込むことで可能性が無限に広がっていくのであり、それは結果として、自分の可能性を広げているのだ。

文責:樋口悠太、松島響子