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ジグムント・バウマン+デイヴィッド・ライアン『私たちが、すすんで監視し、監視される、この世界について』

■ざっくり言うとどんな本?
社会学者のジグムント・バウマンが提唱した「リキッド・モダニティ(液状化近代)」をベースに,バウマンと監視研究者のデイヴィッド・ライアンが,メールのやりとりを通して「リキッド・サーベイランス(液状監視)」について議論をしたという本。

■もうすこしだけ詳しく言うとどんな本?
社会全体が流動的で自由で不安定で不確実なものを好むようになり,いろいろなモノがさまざまな境界を越えて行き来できるようになったいま,それを監視する側も流動的なものになってきている。監視されている側に気づかれないくらい小型化していくドローン,監視される側に自発的に情報を公開させることに成功しているソーシャルメディアなど,多種多様なスタイルで私たちの生活の中に監視が入り込んでいる。そういった世の中で,どんなことが起こり,今後どんなことが起こっていくであろうか,といったことを二人の研究者が物理的遠さを乗り越えてメールによってやり取りしている本。

■なんで変棚に入れようと思ったの?
「リキッド・サーベイランス」の概念を取り巻く監視者と被監視者の関係性に,変人と凡人の関係性を投影できるような気がしたから。不可触(文字通り触れないという意味)で不可視な存在として超越的ポジションを地でいく変人と,安心安全のゲートに囲まれた凡地のなかで絶えず自ら「すすんで監視し,監視され」ようとする凡人,というように考えられると思ったから。

■読んでみようと思った人に何か言うことある?
「カメラを付けてモニター越しに行うもの」などの伝統的な監視像は随分と前に崩壊し,誰でもいつでも監視でき,監視されうるという世の中になりました。この世の中で,あらゆる監視の目からするりと抜けて,自分の思うままに生きていられるのが変人だと思っています。普段の自分の生活などにも当てはめて読んでいただければと思います。

文責:小林拓哉