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宮本道人イントロダクション――過去の変人研究を知ろう!

「変人類学研究所」に興味を持ってくださった皆さま、はじめまして! 主任研究員の宮本道人です!
僕はふだん、物理学専攻で神経生理学を研究しながら、批評を軸に執筆活動を行っています。主な変人活動には、ハエのコスプレがあります。そんな経験を活かし、この「変人類学文庫」では色々な本を紹介することで、「変人」考察を深めていこうと考えています。

さて、皆さんは「変人」についての研究と聞いたとき、「新しい!」と思って下さいましたか?
僕はこのアイデアを所長の小西先生から聞いたとき、とってもわくわくしました。というのも、変人の研究というのはあまり聞いたことがなかったからです。
でも、僕は「あまのじゃく」でして、いつも新しいアイデアを聞いたとき、「本当に新しいモノの見方なのか?」と疑ってかかるようにしています(笑)
なので、過去に似たような研究がないか、あらゆる分野から探してみることにしました!

すると、どうでしょう。近いものは、たしかにあるにはあるのです。いくつか例を挙げてみましょう。
・創造性と異常性の関連をさぐる(行動遺伝学や脳神経科学)
・アウトサイダーアート(芸術や医学)
・二つの社会の境界にいる人の特徴を考察する(社会学や民俗学)
・差別によるバイアスやレッテル貼りの影響調査(心理学や経済学)
・イノベーション教育(ビジネスや教育)
・社会に溶け込めない人物をフィクションで描写する(文学や映画)

……どれも面白そうな研究! 少し例を挙げただけでも、いろいろな研究がいろいろな分野で行われてきたことが分かって頂けると思います。
だがしかし! だがしかし、なのです、、、! これらはどれも個別の分野に点在していて、「変人」というスジを通してまとまったりはしていません。つまり変人の研究というアイデアは、「古くて新しい見方」と言えるかもしれません。

では、「先行研究」からは、どんなことが分かるのでしょう?
まず当然、変人に関する「事実」が分かりますよね。例えばザックリ上記を俯瞰しただけでも、先天的な要素と、社会的に作られる要素と、その相互作用があることが見て取れます。そしてそれらは経時的に変化するし、それについて言及する研究自体も各要素に影響を与えることも予想できます。

でも、これらの先行研究って、何も考えずに全肯定していいものでしょうか?
「事実」ってカッコを付けて書いたのは、一見客観的な見方の枠組み自体も、社会的に作られたものであるからで、変わり得るものだからです。自然科学の研究自体にも研究者の無意識によるバイアスがかかっているし、人文科学の研究だって前提が変わればひっくり返るかもしれない。
それに何にせよ、「あなたの個性はこんな要因から来ています」って切り分けられて、「これを人の役に立てましょう」って誘導されるのは、そんなに気持ちのいいことではない(笑)

だから「変人類学文庫」では、ちゃんと一つ一つの事例について再考していこう!と思っています。上に書いた先行研究に関連するような本をいろいろ紹介しながら、皆さまと一緒に悩んでいけたらいいな、と。
ちなみに僕自身はこういう先行研究を見ているうちに、「変人」は現象だ!と考えるようになりました。
え? どんな意味かって?

それは次回のお楽しみ。まずは僕らが立つべきスタート地点を、一緒に考えてみましょうか。
次回、変人類学文庫1冊目・鶴見俊輔『限界芸術論』、ご期待下さい!